【小説】芥川さん、お誕生日おめでとう!
芥川龍之介生誕祭 文スト 文アル最高ランク : 32 , 更新: 2018/03/01 8:46:34
これは文スト芥川と文アル芥川の誕生を祝った小説です。二次創作ですのでお気をつけください。
文アル芥川先生。なりたいもの。
「芥川先生、お誕生日おめでとう御座います」
そんな言葉をどれだけの人に掛けられただろう。生前とは違い僕も随分健康になったものだ、もうここへ来て一年も経ったのかと何やら狐にでも摘ままれたような気分がした。一年に一回誕生日が来るというのは至極当たり前のことであるのにこうも沢山の人に祝いの言葉をかけられると僕という人間が生まれた輝かしい日というより神でも生まれた輝かしい日のようで、現実味がなかった。
赤い髪の、太宰君と言ったかな、その子に限っては偉く大きい抹茶味のケヱキを無頼派の二人と嬉しそうに持ってきてくれてそれは司書が食後のdessertにしてくれるらしい。有り難うなんて言ったら太宰君は大きな猫のような目に涙を溜めて此方こそなんて言った。その後脇を固めていた二人も泣いてしまった太宰君を慰めながら輝かんばかりの笑顔で有り難うとそちらの二人も言ってくれた。
本来感謝の言葉を述べるのは僕の筈なのに、口下手な僕はそう思ったのにも関わらず上手く口が動かず有り難うと返した。まだ純粋な三人の後に言った有り難うは虚しく僕の胸にこだまし嗚呼、やってしまったと後悔した。僕が言ってもそれは只の飾りにしかならない、中身がぽっかりと空洞になっているChristmasに飾る飾りのようだ。
「何故僕はいつまで経ってもこうなのだろうね」
「お前、そんなことを考えていたのか? この目出度い日に」
「目出度いたいって言ったって、所詮僕というちっぽけな何の役にもたたない只の老い耄れが生まれた日だよ、目出度いなんて買い被りすぎさ君も皆も」
火を付けた筈の煙草はもう根本まで灰になっており僕は懐から新しい煙草をもう一本だけ出しまた火をつけ、吐いた。
「お前はもっと自分に自信を持った方がいい、もしお前がお前の思っている通りの体たらくなら俺はお前の亡き後芥川賞なんて大層な賞は作らなかったさ」
大きな口を明け細い目をもっと細める。そう、それだと豪快に笑う寛の顔を指差した。
「そんな大層な賞を君が作ったから僕が皆にこうやって誤解されているんだよ、そう、そうだ、全ては君が悪いんだぞ寛!」
僕の何が面白かったのだろう、寛は差された指を見詰めていたかと思うと息の塊を吐き出し先程に負けないほど大きく豪快に笑った。
悪い悪いとは言うものの寛の笑いは止まるどころか寛が僕の顔を見るたび増している。まるで子供を宥
めるのような寛の笑い方と瞳に急に恥ずかしくなり赤くなっているであろう首の根本を手で覆い隠した。
「本当にお前の言うことは面白いな、矢張り一緒にいていて飽きない」
「それは如何いう意味だい寛」
「良い意味だ」
何だいそれと反論するもののその声は冬の野原に落ちて消え、声の出ない口をもごもごと入れ歯のないお婆さんみたいに動かす。
顔の中心に熱が集中し野外だというのに酷く暑い。
「僕は、死んだら幽霊になって僕の本が後世でもきにんと通じるのか見たかったんだ、だのに目が覚め何百年という地獄での罪滅ぼしも終わったかと思うとまた現世に、それも自分の理解の範疇を越える鏡の中に芥川龍之介として蘇っているじゃないか、確か地獄では自殺をした者はもう二度と生きて戻れやしないんだよ、そうして生き地獄が始まったかと思えばあんなに長かった一年が過ぎ、僕はまた一つ歳を取り生涯の親友に馬鹿にされているなんて何かの悪夢のようだよ」
「悪い悪い」
「その口ぶりは悪いと思っていないね」
「良い意味でだからな」
「君って奴は全く……」
呆れて自然と溜め息が漏れた。遠くで僕達を呼ぶ司書の声が聞こえる。二本目の煙草もすっかり灰になり今吸っているものはもう十本目だった。
「行くか、龍」
「うん」
今日は特別メニューらしい。
ここから文スト!
文スト芥川。帰りを待つ者。
憂いを含んだ潮風に揺れる黒髪が綺麗だと改めて思った。女性と云うには無理があるがまだ少年のような幼さが残る横顔は実の兄としても目を見張るものがある。黒い遮光眼鏡に詰め襟の外套を羽織る兄は背筋をしゃんと伸ばし音もなく歩く様子は昔本で読んだ遊女のような独特の気品が感じられた。
「矢張り、白は目立ちますでしょうか」
「心配することはない、よく似合っているぞ、銀」
「よかった……」
慣れないドレスの裾を引き摺りながら歩いているからか群衆の目が痛かった。矢張り夜のヨコハマでこの格好はポートマフィアの者として気を緩めすぎかと思ったが兄さんが心配することはないと云うのだから心配することはないだろう。いつだって兄さんの心配することはないはその通りだった。貧民街にいた頃も兄さんが心配ないと云えばたちまち子供達の怒声は晴れ翌日には確実に食べ物が手に入った。全ては兄さんの異能力羅生門と兄さん自信のカリスマ性によるお陰だったのだ。
「今日は兄さんのお誕生日ですね」
ヨコハマのネオンが兄の顔に降り注ぐ。
「そうだったか」
「はい」
然して興味がないと云った様子だ。兄にとっては如何でもいいことだろうが私にしてみればこの世で唯一人の親族であり親であり兄であり上司でもある、兄の誕生日はお正月と比べても劣ることはないほどの一大行事だ。それに私の誕生日に忙しい中首領に直談判し私の分の仕事も背負って私をお昼からヨコハマの街で遊ばせてもらった恩もある。
「兄さん、今日はいいお店を押さえてありますからこのまま食事をしませんか? たまには外で綺麗な夜景を見ながらご飯を食べるのも楽しいと思いますよ」
兄さんは口に手を当て少し考えるふりをした後短く嗚呼と返事をした。表情は先程と変わらず寧ろ悪くようになったようにも見えるが長い付き合いである私には判る、今兄さんは上機嫌だ。
「それじゃあ行きましょう」
半ば引き摺るように兄さんの手を取った。兄さんはなんの抵抗も見せずよろめくこともせず得意の鼻から空気が漏れるような笑い方をした。
だざは可愛い()
新思潮良き……寛と龍いいよねぇ……。
銀ちゃん可愛いなぁ……やつがれ上機嫌良かった!(笑)
妃有栖
2018/03/01 9:24:02 違反報告 リンク
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